人工水晶

1999年7月、当サイト「animaCrsita」は、ある方(匿名希望氏)のご好意によって人工水晶と原料のラスカを入手した。さっそく人工水晶の観察をしてみよう。

人工水晶は、電波機器、電子機器を中心に光学機器にも応用されており、今や、現代文明の縁の下の力持ち。もう水晶なくしては語れない。もし人工水晶がなかったらこの世は、いかにも「不安定」な「どんぶり勘定」の世界となってしまうだろう。

私が真空管から電波を出すためFT243型水晶発振子をはじめて手にしたのは、もう25年ほど前の子供時代。鉱物採集を始めたころと重なる。当時はほとんどの人が、こんなに水晶だらけの社会となることなど夢にも思っていなかったろう。


■人工水晶ってなに?
水晶の工学的応用について、私の知る範囲で書くてみよう。水晶は可逆的な圧電効果を持っている。圧電効果とは機械的にゆがめると電気が発生する現象である。また逆に電圧を掛けるとゆがむのである。クリスタルマイクやクリスタルイヤホンに使われていたロッシェル塩など他の圧電素子と同様に、水晶も薄く切って電極ではさむことにより発振子ができ上がる。これを含むトランジスタ1コの電子回路によって、安定した周波数の発振回路が出来る。水晶の出す信号は、温度/湿度などの変化に対し非常に安定したものだ。

この安定したパルスを基準にして、携帯電話、無線器や放送局の電波も出ているし、また、時計、パソコン、車、台所用品まで、ありとあらゆる電子応用機器の標準クロックを司っている。今や世の中水晶だらけなのである。大げさに言えば、地球は水晶や水晶の作り出すパルスや電波で覆われ、今も私たちの体を貫通しているのだ。

人工水晶は99.9999%という純粋さをほこっている。この水晶発振器用の水晶は、当初、天然の水晶を使っていたが、後に人工の技術が研究され、より安定した製品の製造が可能になったのだ。


■どうやって作るのか?
ある方のご好意により、人工水晶の製法をわかりやすく説明していただく機会に恵まれた。人工水晶にも原料がある。それはブラジル産の「ラスカ」だ。石英の一種と思われる。人工水晶とは言え、やはり原料は鉱山で採るのである。(写真左右約10cm)



このように白濁していて不純物が多い。これを高温、高圧のタンクの中で溶かし、ゆっくり人工水晶へと成長させるのである。オートクレーブと呼ぶ育成炉の下部にラスカを入れ、上部に種水晶を吊るし、アルカリ水溶液を満たし密閉して高温・高圧(約350℃ 1,000気圧)に保つ。すると種水晶はここで紹介しているサイズの結晶の場合、約30日で不純物の無い純粋な水晶が出来上がるという。



結果、非常に安定した結晶、純粋な品質、規格サイズとなるのだ。テクノロジーというのはまったくスゴイものだ。山梨大学の某先生に聞いたところ、過去に人工水晶の研究者が居られ、今でも大学内に同様のタンクがあるという話だ。さすがは宝石が地場産業の山梨県だけのことはある。

■よく見てみよう
いただいた人工水晶は限りなく無色透明である。人工の結晶であっても、こんなに無色透明の物質は、氷やSiO2以外ないかも知れない。さらに良く見てみよう。

●全体形
全体の形がユニークだ。なんと断面が長方形なのだ。しかし長い方向に結晶軸はない。結晶軸(C軸)だったら6角だろう。なんと、この写真で言うと机の平面と平行かつ長さの方向に直角な方向にC軸がある。実にユニークな晶癖なのである。(写真左右約25cm)






●ディティール
両端を見ると、結晶をつり下げたハリガネが貫入している。これはサスガに自然物にはないモノだ。(ほぼ実物大)





表面を良く見ると、鉱物学で、一般に「結晶面異常」とよばれる条線や微斜面がある。このあたりは自然と同じなのが面白い。


▲先端部(結晶学的には側面m)に現われた条線

▲側面部にある腎臓状の突起

▲側面部にある平行連晶状のキザキザ突起

これらは、別に「異常」ではなく必然的で自然な現象であることが、人工水晶を眺めることにより、改めて認識される。

●天然水晶との比較
これは昨年沼津の市場で400円で買ったブラジル産の天然水晶であるが、天然モノらしく、根元がラスカ(人工水晶の原料)のように白濁し、先が人工水晶のように透明、という具合に、グラデーションになっているところが、面白い。(ほぼ実物大)



●まとめ
人工と言っても工業用水晶である。だれか「美」を基準に、人工水晶クラスタのようなモノを作ってはくれないだろうか? ちょっと見てみたい気がする。まあそれは冗談として、かくも安定した時間軸を提供してくれる人工水晶は、確実にひとつのアーティフィシャルなエポックだろう。それにしても、人はとんでもなく純粋なものを作る技術に長けているものだ。いかにも西洋的な技術の成果である。水晶がもたらしたと言ってもいい電波+電脳時代… 人類の次なる進化に期待したい。



ともあれ人工水晶をいただいた某氏のご好意には大変感謝しております。おかげさまで、animaCristaは、またもや多くの知識とインスピレーションを得ることができました。この夏は大変多忙で、この人工水晶のコンテンツのアップロードもずいぶん遅くなりましたが、某氏に厚く御礼申し上げます。1999年10月10日


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